そうだ、ジバンシイ行こう

 


恐ろしい事が起こった。この壮絶な戦いを忘れないように事の顛末を記録しておく。その夜もひどく雨が降っていて、こんな出来事でも起こらなければ近頃の似たような夜とおよそ見分けが付かないほどだった。月曜日から仕事が終わらなくて残業をして、誰もいない更衣室で帰り支度をしながら、あー仕事辞めたいなーとかでも辞めたらお金ないなーとかいつものようにぼんやり考えていた。朝から食べたかった限定のカップ焼きそばが売り切れていたし、随分前の仕事のミスが発覚してその処理に追われていたしバスが遅延していたしでとにかく散々な1日で、今日はきっともう良いことが起こらないから諦めて早く帰って寝ようと電車に揺られ、20時を回った頃。何気なくTwitterを開くとそれがオタクを待ち受けていた。

 


おっ♪今日提供トラジャなんだ♪やったー!と特に何も考えずYouTubeのリンクへ飛び再生ボタンをタップする。その時の私はすっかり忘れていた。エスティローダーの惨劇を。

 

 

 

成人して数年が経つが、恥ずかしながら胸キュンの類が苦手である。誤解しないでほしいのだが、決して嫌いなわけではない。オタクの言う無理は"最高"で、やだも"最高"なのである。そこに好きな男がある限り、極端な例外を除いて全ての感想は基本的に"最高"に帰属する。分かりやすく言えば本当は嬉しいのだが、照れているし、恥じらっているし、抗っている。とにかくホラーやサスペンス、スプラッタやミステリーの類は全く平気なのにどうしてもラブシーンだけは見られない私が平気で見られるのはのえげんの罰ゲームKiss…くらいだった。そんな私はこれまでにアップされてきた胸キュン動画とも激しい闘いを繰り広げたが結果は大敗。ほとんど薄目でしか見られていないし、エスティローダーの動画を全クリするのにも気が遠くなるほどの時間と労力がかかった。しめちゃんの超かわいい「僕、好きになっちゃいました」からの松倉くんの「おっつーおつかれ」に食らった鮮やかな連続カウンターのダメージは今でも昨日のことのように思い出せる。しかしあの日の口腔内に滲んだ血の味も忘れさせないまま、それは再びやって来た。

 


まだ電車に乗っていたので帰宅してから見ようとYouTubeを冒頭で一旦閉じて再びTwitterを開くとフォロワーさんのしめ担の安否を危惧するツイートが目に飛び込んできて、ここで私は初めて察した。どうやら今日の動画はヤバいらしい。中でもしめちゃんがヤバいらしいと。まあまあ、とは言え思い出してほしい。我々はあの炒飯動画を履修した猛者である。

 


どんなにヤバくてもここ、炒飯で習った!解ける!解けるぞ!になるはずだ。Twitterで続々受ける死刑宣告や安否確認(みんなー!愛してるよー!)に戦々恐々としながらも、内心は強気だった。万全を期して音声はミュートにする。

 

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無理じゃね?


同棲中 日常にあるセクシーとは?

世はセクシー大時代。Sexy Zoneを筆頭に「セクシー」は単に性的な魅力のみを意味する言葉に留まらなくなってきていた。これはあくまで個人的な解釈だが、「セクシー」は愛であり思いやり優しさであるし、誰かを思って涙を流す夜であるし、掌の皺であるし、漲る生命の輝きそのものである。

まずもってTravis Japanという歌って踊れる世界を目指すダンスボーカルグループに所属し、その溢れる才能や温かい人柄、美しい容姿に胡座をかかず日々努力し優しく強くひたむきに美しく振る舞い続けている、この時点で全員問答無用の大セクシーなわけで。その上で人工的なセクシーを…さらに…加算していくと言うのか…?嘘だろ?再度再生を中断し、こんな動画を世に放っていいのか(いいよ)と悶々と考えているとサムネイルにご丁寧に警告文があった。

「Sexyが爆発中につき危険」

こういうのは大抵再生回数を伸ばすための所謂釣りだったりするが、今回の動画に限っては非常に適切だ。というわけでファーストラウンド、本編未再生であえなく敗退。最寄駅に着いて改札を出るとコンクリートの地面を雨が激しく打っていて、まるで項垂れる私の心を映したようだった。

 


無事帰宅して夕飯を食べながら私の脳内には何故か美 少年のCosmic Melodyが流れていた。後から思い返せば多分何気なくつけたテレビに那須くんが出ていたからだった。ほとんど心ここにあらずのままとにかく夕飯を流し込んだせいか、Cosmic Melodyのおかげか、ボコボコにされた体に再びじわじわと闘志が戻ってくるのを感じた。私は今、美 少年の皆さんとLet's go the party   踊れ 光を胸に 彗星をなびかせている場合ではないのだ。コズメロが名残惜しかったが逃げるわけにはいかない。

 

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セカンドラウンドを前にして私は名案を思い付いた。目には目を、セクシーにはセクシーを。お風呂の中で見る作戦だ。全力セクシーには全力セクシー(全裸)で迎え撃つ。通称、オシリ作戦。(シン・ゴジラ見てください)まさにセクシーとセクシーのぶつかり稽古。私は意気揚々とスマホを防水ケースの中にブチ込み、自らの身体を念入りに清めて湯船にブチ込んで念の為音声は再度ミュート、明るさも最低レベルにして再び再生した。

 

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無理である。半袖を着ている。さっきまで長袖だったのに、着ている服の面積がそんなに急に減られると無理である。私は好きな男にはなるべく着込んでいてほしい至上主義(だめ。お前が1gでもなくなるのがイヤ)だが、半袖となれば話は別である。体が言うことを聞かなかった。目にも留まらぬ速さでスキップボタンを連打、セカンドラウンドも敗退。


しかしここで終わるのはさすがに炒飯に合わせる顔がない。そこで私はTwitterのオタク友人にあらすじの文字起こしを依頼した。持つべきものはオタクの友人だ。

ネタバレになるのでモザイクで失礼するが、このような内容だった。

 

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え?妄想?

それは私の想像を遥かに超えた恐るべき内容だった。目ん玉スロット5000回転、確変である。なんかもう負けでいいし、全部忘れようかなと思う反面、冷静な自分もいた。もう文字起こしをして頂いて一旦脚本に目を通しているわけだから、逆にこちら側に有利かもしれない。私には愛すべき友人たちも炒飯も付いている。もう一度、もう一度だけ再生してみよう。

 

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無理である。

もうめちゃくちゃにこの上なく顔が好きである。よく考えたらコンサートでもしめちゃんがあまりにも綺麗であまりにも好きでろくに直視できないオタクの手に負える相手ではなかった。完敗。いつかちゃんと目を開けて向き合える日が来るかな。薄れゆく意識の中で思った。

そうだ、せめて明日、ジバンシイ行こう。

 

 

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